元禄15年5月29日。
近頃、近江守組夏目紋右衛門が乱心する。
しゆんという妾をとても愛しており、心を病んでしまった。
かつて火事から逃げ出す際も心配で、妾を長持に入れ、鏁(錠)をおろしたと。
近頃、裏へ北隣の比木伝六を呼び出し、妾がお前のところに隠れているはずだからすぐに出せと言った。
伝六は驚きながらも乱心であることを知って、なんとかなだめて収めた。
伝六弟の世兵衛が紋右衛門のところへ行って中をうかがうと妾は縛り上げられていた。
紋右衛門の問いかけると、これは女の霊であり、本当の女はお前のところへ行っていると答えた。
女に縄をつけ、自分の腰に括りつけ、小大便に行くにも放さなかったとも。
髪は乱れ、しかめ面でまるで魔王ようになってしまった。
伝六が裏へ出ると、10匁鉄砲を撃とうとするときもあった。
とりあえず信濃守は乱心とは公にせず、当分病気ということにし、親類どもは大竹で囲いを拵え、中へ入れて置くと。