一 倹約の件につき次の通り。
家中の輩始め皆に倹約を言いつけられたが、世間では身のほども知らず、贅沢な衣服などを用い、良くない行いもあると聞こえてくるのは不届きである。
この度厳しく倹約を言いつけられ、別紙のとおり申し渡すので心得違いのないよう厳しくこれを守り、行いも改めるように。
別紙。
一 蝉が涼し気な羽織を着るのは不相応である。
この後は横麻(緯糸が麻、経糸が絹の織物)の羽織を脱ぐように。
一 松虫、鈴虫が籠の中で砂糖水を好むのは贅沢である。
今後は野山のように露ばかりで精を出して鳴くように。
一 蟻の塔(蟻塚)を組むことは自身で組むのであれば苦しからず、寄進や奉加を頼むことは一切禁止する。
かつまた熊野へ大勢連れて参るのは無駄なことである。
以後は2、3人で暇を見つけて参るように。
一 蛍が夜中に火を灯して飛ぶことで、町々の家が立て込んでいるところでは火の元に気をつかっているので遠慮するように。
池、川、田地などは苦しからず。
一 蜘蛛が領地内でやたらと網を張り、虫を捕えるのは不届きである。
以後はその場所相応の運上(税)を差し出すように。
ただし蝿取蜘蛛は運上に及ばず。
一 密(蜜)蜂の小便を高値で売っているとのこと。
あちこちで不都合となっているのは良くないことである。
今後は世間一般では米6升の値段とするように。
一 蟷螂が短気に斧で虫を殺害するのは不届千万である。
今後は胸(棟)打でさえ一切行わないように。
一 金魚は近年ますます華美になっている。
今後は金銀の飾りを一切行わないように。
ただし、赤塗、沙箱(白?)までは苦しからず。
一 蛤が春の暖かい時期に澄んだところにほこりの楼蘭を立てるのははなはだ贅沢なことである。
今後はこのような普請は一切無用である。
もし家の柱が傷んだならば根継して用いるように。
一 蝙蝠が昼間は橋の下に隠れ、夜な夜な人里を徘徊することはどういうことであろうか。
鳥獣改の際はあちこちへ言い訳をして役儀を勤めないのは不届きである。
今後は立合の支配を請け、役儀を勤めるように。
一 音喚鳥(インコ)が五色の錦繍を着ているのははなはだ贅沢である。
今後は何色であっても一色に改め、もちろん縫箔(刺繍と摺箔)などは一切行わないように。
一 白鳥、白雀などがこの頃見受けられる。
先年は頭だけが白いものでも稀であったが、近年はやたら見受けられるのは良くないことである。
今後は異様な風体はしないように。
一 鼠の嫁入りの様子を聞き及んでいる。
廿日鼠に5升樽を持たせるのは過分なことである。
以後は提錫(銚子)で済ませるように。
酒に酔い、天井で踊りなどを催して騒いでいる。
人々の妨げとならないよう、空き2階の掾(椽)の下で盆の間踊ることは苦しからず。
一 猩猩が常々大酒を好み、踊り狂うのは贅沢である。
尋陽のあたりへ持ち出しての供応は一切行わないように。
やむを得ない事情で行っても一種一献(一杯)に限るように。
もっとも酒は最寄りの酒屋で必要な分だけを買うように。
一 狸が腹を四畳半に延ばし、茶をたて、人を迷わし、諸道具に金銀を費やすことは不適切である。
このような行いは止めるように。
自分の楽しみとして腹の革を打つことは苦しからず。
一 馬の太鼓は往還や問屋の前をはばからず無礼である。
結局は贅沢であるので止めるように。
ただし、厩の中では苦しくはないが、火の見の太鼓と重ならないよう心得るように。
一 赤鬼・青鬼の輩は虎皮の褌をしないように。
病気の犬の革がたくさんあるので、取り替えるように。
ただしこれは家持頭の鬼であって、借家住まいの召仕の鬼は古い桐油の合羽を切ったものを腰に巻くように。
一 虱は先年言いつけられた通り鉢たたき以下袖乞、非人乞食に宿って生活するはずであるが、近年は節操なく貴人・高位をはばからず緞子、縮緬の夜具、布団、あるいはウコン染の類を恐れずあちこちを徘徊し、子孫のはびこらせ、春には花見虱などと身のほどを忘れ、贅沢をし、這いまわっていると聞き及んでいる。
はなはだ不届きであり、洗濯をしたところから爪を廻し、ある時は三つ絡みの上下に絡んで理不尽にも喰い廻っていると聞き及んでいるのはよろしくないことである。
今後このような者がいれば虫眼鏡で詮議の上、必ず潰してしまう。
もし違反し、袖下や襟先などに隠れて子種を産み付けたことが後日露顕すれば、本人だけに限らず産み付けた卵にまで湯をかけて罰する。
一 蚊は様子をうかがい、蚊帳の外で油断した者で暮らしてきたが、近年は蚊帳の破れたところを伺って忍び入り、あるいは人々の出入りの際にそれについて中に入り、幼少の者もいやがらずに喰ってそこから腫物になると、その上うす暗いところでは昼間であっても存分に働き、その上大勢で夕方からは申し合わせて辻で踊りを催し、紺ちらしの伊達模様を揃えて拵え、贅沢をして人に恐れず行き当たるのは甚だ不届きである。
今後は夕涼みであっても往来を邪魔しないようきつく慎むように。
以前のぼうふり(ボウフラ?)の心で生活するように。
この度改めて言いつけられたことにもし背くことがあれば、大うちわできつく申し付ける。
一 蚤は冬、春には遠慮し、夏中、秋に生活しているが、近年は四季に関係なく寒いうちから春まで皆を痛い目に合わせているのは虱同様に不届きである。
特に夏には夜早くから現れ、かたまってほっつき歩くのは言語道断の不届きである、内々に詮議されたところ足早に立ち退いたとのこと、以後同様のことがあれば指先で尋ねだし、見つけ次第木枕の上で罰する。
この条々を堅く守るように。
もし不注意にも心得違いの輩があればきつく罪を申し付ける。
品に集まる蟻の町代、組頭まで落度とする。
かつまた最後の三箇条を言いつけられた内容を漏らさぬよう隅々まで入念に知らせるように。
子5月。
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