正徳3年閏5月11日。
材木屋天満屋九兵衛宅には古い井戸があった。
朽ち果てたような井戸だったので更地にしようと去年から芥(ごみ)を入れたが、沈んでしまうことが度々あった。
この日は梅雨の晴れ間だったので、中間に言いつけ、塵芥を片付けて平らに直させた。24才の者が1人井戸に入って長らく出てこず、うめき声が聞こえた。
27才の男が不安になりながらえいと言って入ったが、また出てこなかった。
これもうめき声がした。
家中では慌てて近所の井戸掘りを呼びに行かせた。
井戸掘りが言うには、古い井戸に入る時は必ず冷水をたくさん汲み入れて、それから入るものである。
これはこの上もない不注意できっと命はないと水を5、6荷分汲み入れから井戸に入ったが、途中から出て来て、まだまだ熱さ耐え難いからとまたたくさん水を入れた。
その後下り、前の2人を取り上げたが、後で入った男は即死しており、前に入った者はまだむぐむぐを息があったが、物も言うこともできずにやがて死んでしまった。
近頃、御園町の大工が貧しさのため自害する。
町奉行は憐れに思い、妻に金2両を与えたと。